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処置指針(対医療機関)

過去処理事例(対医療機関)

フランスの災害例

モノクロル酢酸(MCA)

−実際の例−
熔融MCAを浴びた労働者の中毒症
場所 フランス
日時 1985.5.7
被災者
年齢 47歳・男性・白人
仕事 SMCA製造工程で2年の経験
健康状態 胃・十二指腸潰瘍
事故
  1. 午前8時40分。被災者は圧力がかかった約90℃の高温熔融MCAを偶然開いた渡連バルブから両足に浴びた。被災者はすぐにバルブを閉め、数秒の内に同僚から、消化ホースで水をかけてもらいながら着衣を脱いだ。
  2. 午前8時45分。被災者は工場医務室へ連れて行かれ、15分間に渡って大量の水で入念に洗われた。
  3. その後10分間、トリエタノールアミン水溶液で両足を浸し、洗った。
  4. 次にBIAFINEクリーム(トリエタノールアミン入り)を火傷した皮膚に付け包帯をほどこした。
  5. その時点では、火傷は1〜2度の段階で体表面の6〜10%と見えた。火傷は大したこと無く思え、又、被災者も良い状態にあった為,被災者は救急車で自宅へ送られた。
全身の中毒症状
  1. 真昼(事故から3〜4時間後)被災者に最初は、下痢・吐き気の消化器系の症状が現れ、その後進行する神経症状(交互に起こる、昨日の興奮と低下)が現れた。ほどなく、病院へ搬送する途中でショック症状が進行して行った。(血圧の低下、心音の低下)
  2. 午後3時。集中治療室に到着した被災者はショック症状で錯乱状態であった。
    • 血圧:7(単位?)
    • 高酸性症(アシドーシス)  pH=7.22  pO2=116  pCO2=25
    • Alcaline rederve=10.7
    • Hypoglycemia: 8.9
    • Hypokalemia: 3.1
    • Hypokalemia: 8.9
    • Hyperleicocytosis: 28.000/mm3
    • 体温:36.8℃
    • ECG:ischemic signs from V2-V6
    • CPK: 161μ
治療
  1. 午後3時〜6時
    • 鼻からの酸素吸入
    • アルカリ質の注入(NaHCO3、THAM)
    しかしながら午後6時になっても酸性症は消えなかった。
  2. 午後6時から翌日午前11時まで
    • THAM注入
    • 胃に挿入した管によるアルコール注入:午後6時 95vol%
    エタノール70ml その後アルコール濃度を0.5〜0.8g/lに保つ様に午後11時まで2時間毎に50ml注入した。ピークの問題からエタノールの注入は午後11時から翌日の午前8時まで流量制御ポンプで連続的に500ml行った。
経過
  1. 翌日('85.5.8)アルコールが切れて来たら、意識が回復して来た。血液の異常は消えてきた。クレアチンとCPKは高くなった。(それぞれ125と1690μ)
  2. 翌々日('85.5.9)意識は正常になった。(被災者は事故の模様を話せるようになった。)
  3. 3日後('85.5.10)被災者は集中治療室から出た。
火傷
  1. 病院での診断では、体表面積の10%を占める第2度の火傷であった。
  2. 治療:毎日の手当ては最初"Flamagine"で、次に"Antibio-tulle"最後は"Corticotulle"であった。後に水性"Eosiu"により治療し他の薬はつけなかった。
併発症
  1. 事故の9日後に十二指腸潰瘍からの出血による、消化器系の出血(melena)が現れた。しかし通常の治療で数日の内に消えた。

スウェーデンの災害例

第3回 臨床中毒学会と毒物コントロールセンター協会世界連名の世界大会
第7回 毒物中毒コントロールセンターヨーロッパ連盟(EAPCC)国際会議

1986.8.27〜30
事故例
  1. 38歳のトラック運転手は荷下ろし作業中に、MCA80%水溶液を浴びた。その時、彼は特別な保護具を着用していなかった。2分以内に着衣を取り去り、20分間シャワーを浴びた。事故から1時間後に病院に収容された時、体表の25〜30%に第一度の火傷が進行していた。一方多少の焦燥躁感を除いて他におかしい所は無かった。その後意識が無くなり、ECGは一般的な心臓の衰弱症状を示すようになった。被災者は、吸入器を取り付けられ、静脈液とinotropic薬(dopamine、dobtamine)が与えられた。(血液)循環を良くする為、ブドウ糖、メチル-prednisolonが投与された。しかし最初の24時間の間は、代謝酸性症は中和薬の投薬にもかかわらず顕著であった。(基礎不足は10mOsm/L)
  2. エタノールとN-アセチルシステインによる解毒治療が最初の24時間続けられた。
  3. 腎不全が進み、翌日尿解毒症が起きた。広い範囲の細胞組織の破壊を示す、クレアチンkinase値が非常に高くなった。連続的に動脈血液の透析が開始された。
  4. 心臓からの排出は正常になったが、肺の毛細血管の圧は上がり、血管抵抗が下がったことが肺動脈のカテーテル・モニタリングから解った。
  5. 4日目 発作を繰り返す為、バルビツル酸塩とdiazepamが投与された。
  6. 5日目 同じく頭内圧の上昇の兆候が現れた。濃密吸入、バルビツル酸塩、manniton注入が始められた。しかし2日後(7日目)に脳の状態が悪くなり、脳梗塞の兆候が現れた。ECGとangiogramは脳死を示した。
  7. 血液中のMCA分析結果及び、検死結果はまだ公表されていない。
論議

患者の第1度の火傷の一部は、MCAに触れた時から2時間以内で組織中毒の症状又は兆候が進行していた。著しく侵される器官は、CNS、心臓、腎臓であった。症状に対して最適な治療にもかかわらず患者は亡くなった。MCAによる皮膚の薬傷は、皮膚の元来持っている保護機能を破壊し、このことによって、MCAは大量に体内に吸収される。(MCAは脂質を溶かしにくい本質があり、完全な皮膚を通しては吸収されないであろう。)接触後の組織中毒作用はフルオルアセテートに似ている。それはトリカルホオキシリック酸のサイクルの中でのaconitaseシステムの抑制によるアセテート酸化の抑制が競合しないことによる。ヌアセチラチング-SH残留物による肝臓と腎臓のイオウ化合物の減少をまねく。心臓障害もまた起こる。この患者はMCA中毒症状の典型的症状を示した。

経験データはアセテート血液として与えられたモノアセチン(グリセルモノアセテート)が解毒剤になる事を示唆している。モノアセチンはしかしながら臨床では一般的でなく、その代わりエタノールが知られている。(エタノールは酸化で酢酸になる。)我々の患者にはエタノールが24時間に渡って試みられ、N-アセチルシステン(SH-血液として)も同様であったが、成功しなかった。

腎臓障害の治療の為、血液透析が行われた。たぶん血液透析はMCAの除去、分解をよくする為、早く開始すべきであっただろう。

この例は、化学薬品による事故(災害)において、色々な水準の用意の拡充が重要であることを示した。

人間に接触した場合の毒性データ、症状、治療法に関した情報は良く使用される工業薬品については、簡単に入手出来る。しかしながらあまり用いられない薬品の情報は急場にはほとんど見つけることが出来ないか又は、難しい。絶対に重要な事は情報の拡充の為活動を始めること、例えば中毒センターの活動体制を含めて、である。

結論
  1. MCAは非常に毒性が強い薬品として注意されるべきである。又、皮膚との接触による吸収についても注意されねばならない。
  2. 迅速な洗浄が重要である。患部は何よりも早く大量の水で洗い、汚染された衣服も取り外すこと。患部は充分な水洗いのあとで、石けんで洗うこと。
  3. 中毒のメカニズム(モノアセチン、エタノール、N-アセチルシステン)等の解毒作用の効果、排除技術(例えば、血液透析)に関した研究が始められなければならない。

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